仮装した子供達が近所の人を脅かせ、お菓子を貰う。こんな素敵な祭りがどうしてここ日本ではあまり馴染みがないのだろう。
近年ではアミューズメントパークでハロウィンにちなんだイベントが行わったりと少し定着してきたようだが、やはりまだ一般家庭では馴染みがない祭りのようだ。
大人も子供も一緒になって楽しめるものだろうに。
・・・だったら、やればいいじゃない!!
そう思い立った私は直ちにハロウィンの準備を始めた。
魔女をイメージさせる黒いマントに黒い三角帽子を用意して、部屋にはランタンをたくさん置いて火を灯した。
あとはこの家の主が帰ってくるのを待つだけだった。
真っ暗な部屋に浮かぶランタンの光が不気味だった。それだけでも怪しい雰囲気漂っているというのにいつもの自分とは違う、真っ黒の衣装に身を包んだ自分がまるで幽霊のような存在になった気がして、この部屋で帰りを待つ時間が不思議な時間へと変貌を遂げているようだった。
この家の主、大河内春樹はまだ帰ってこない。
部屋には誰もいないのだろうか。いつもなら部屋には明かりが点いているはずなのだが。
帰宅し、自分の部屋の様子がいつもと違うことに一目散に気付いた。あいつは買い物にでも出かけているのだろうか・・・。
そんなことを考えながら大河内春樹は玄関の鍵を開けた。
部屋は真っ暗だった。
ただところどころ明かりが浮かんでいる?・・・・・・ろうそくか何かだろうか。自分よりも年下の彼女は突拍子もないことを仕出かすような女だから特に驚きもしない。
部屋の明かりをつけてみると真っ黒な人間── ──がダイニングテーブルの上に顔をうずめていた。
「?」
名前を呼んでも返事はない。寝てるのだろう。
それにしてもこの格好はなんだ?まるで魔女のようだ。
「ん・・・。あれ?」
「起きたか。」
「・・・・・・いつ帰ってきたの?!」
「ついさっきだが・・・それにしてもその格好と部屋においてある─ランタンは一体・・・」
あぁ!これ?と言いながらは立ち上がり目の前でまわってみせる。
「魔女ですよ。どうかな?似合ってます?
あ、そうだ。Trick or treat!甘いもの下さい!!」
「甘いもの・・・ハロウィンか?」
「そうですよ〜。甘いものくれないと悪戯しますよ?」
そうか、と呟くとポケットから例のケースを取り出し錠剤を数粒取り出した。そして己の口に放り込み彼女にそっと口付けた。
「・・・甘い」
「甘いものが欲しいと言ったのはだ。」
「ソレってそんなに甘いものなの?」
「・・・さぁな。」
ハロウィンの夜、それは魔女が甘いソレに溺れた日。