少し肌寒くなってきて、冬が近づいて来たことに気付く。もう10月の終わりなのだ。
この時期になると、ささやかなお祭りごとが町中で催される。
変わった帽子を被って接客するスーパーの店員さんに限定お菓子。日本ではささやかなお祭り──ハロウィン──というとちょっとしたものだ。外国で見られるような仮装をしてお菓子を貰う、だなんて日本では目にしない。
勿論、この私も生まれて数十年。ハロウィンで仮装したりお菓子を貰ったりしたことはない。
・・・・・・ただ、なんとなく。今年はあの呪文を言いたかった。
英国紳士なあの人はどんな反応を示してくれるだろう?
「Trick or Treat?お菓子くれなきゃ悪戯しますよー!!」
「おやおや・・・残念ながら持ち合わせていないんですよねぇ。」
「ということは・・・!!悪戯ですねー覚悟してて下さいね。」
それは・・・困りますね、とふわりと微笑みながら紅茶を入れる杉下さん。
実際、悪戯をするとなると案外思いつかない。
さてさて、どんな悪戯を仕掛けよう?
考えているうちに杉下さんと亀山さんは数日前に起こった事件の聞き込みに出かけた。
これってチャンス?
「さん、あなたの仕業ですね?」
聞き込みから帰ってきた杉下さんは特命係の部屋の棚に置いてあるはずの紅茶の缶がごっそり無くなっていることに気付き私のところにやって来た。
「悪戯ですから。紅茶没収の刑です。」
「・・・そうですか。」
そういうと杉下さんは特命係の部屋に戻った。
たったそれだけの反応に拍子抜けした私は杉下さんの行動に疑問を抱えながらも仕事を再開した。
あれから何事もなく時間は過ぎ、定時になったので杉下さんの紅茶を返しに向かった。何も言われなかったけど・・・さすがにこの悪戯は酷かったかもしれないと今更後悔しながら特命係に足を運んだ。
「杉下さん、今日はすみませんでした。ちょっと悪ふざけが過ぎました。」
私は軽く謝罪しながら杉下さんの紅茶を返した。一方、杉下さんは普段の笑顔とは少し違う笑みを浮かべながら受け取った。
この笑顔は・・・何だか嫌な予感がした。
「さて、悪戯をした子供には罰を与えないといけませんねぇ。」
「罰、ですか?!・・・え、私謝りましたよ?っていうか子供じゃないです!!」
「『Trick or treat』と唱えて近くの家を1軒ずつ訪ねるのは子供達がすることですよ?」
「え、いや・・・そうですけど・・・」
「とりあえず今晩、僕にお付き合いして頂きます。・・・もちろんこれは罰ですからね。」
夜はまだまだこれからです。