「とりあえず、事件解決して良かったですね!」



ジャック・オ・ランタンにを灯して




青年こと浅輪君が何とも可愛らしい笑顔でそう言った。犯人を捕まえ、前面自供も取ることができ、見事解決に至った。そして各自やるべきことも終え、帰り支度を始めていた。

「あら?ちゃん、それ何?」
「これですか?」
「・・・どー見てもかぼちゃだろ。」
「そんなの見たら分かるわよ!」

話題に上ってる私の持っているかぼちゃ。ちょっと小ぶりだけど形の良いかぼちゃで、所謂「おばけかぼちゃ」と呼ばれているオレンジ色のかぼちゃだ。

「もしかしてハロウィン?!」
「さすが矢沢さん!!」
「あぁー!!そういえば明日ね!」
「ジャック・オ・ランタンでも作ろうと思って用意したんです。明日この部屋に来るのを楽しみにしてて下さい。」

それは楽しみだね、などと言葉を交わしながらも、部屋には一人また一人と人気が無くなっていく。今日は奇しくも当直なので、時間つぶしにもなるということもありランタンを作ることにしたのだ。
勿論、明日がハロウィンだからというのも理由の一つ。

9係の部屋に私ただ一人。かぼちゃを相手に格闘を始めた。
中の種を抜き取りスプーンで少しずつ中身を削って、果物ナイフで皮に書いた顔を抜き取る。頭では手順が分かっているとはいえ、硬いかぼちゃを切り抜くのは予想以上に難儀で時間が掛かった。
更に怪我をしないように慎重に作業しなければならないから余計に神経を使うので疲れも出てくる。

「まだやってんのか?」

声がする方向に目をやればもう帰ったはずの青柳さんがそこにいた。
どうやら青柳さんが入ってくる音にも気付かないくらいにかぼちゃを削ることに夢中だったようだ。

「かぼちゃが思ったよりも硬くて・・・って!そういう青柳さんはどうしてここに?」
「ぁー・・・忘れ物だよ忘れ物!」

そう言いながら青柳さんは椅子に腰をかけて、

「っつーかよー、終わらないのはお前が不器用だからじゃねーの?」
「ぶ・不器用って・・・」
「普段のお前見てても不器用だしな。」

ニッと笑う青柳さん。
そして私が持ってたかぼちゃとスプーンを取り上げた。

「削ればいいんだろ?」

ガリガリ、かぼちゃを削る音がまた部屋に響き始める。

「だから、お前は不器用だから朝になっても終わらねーだろうからな。手伝ってやるよ。」
「へ?!」
「何抜けた声出してやがる。ここは『ありがとうございます』って言うとこだろーが。あと気ぃ利かせてコーヒーでも入れるだろー。」
「え。あ。はい。ありがとうございます。」

慌ててコーヒーの用意を始めた。部屋にはかぼちゃを削る音がする。
青柳さんは一気に(むしろ力任せに)削り、あれだけ時間が掛かった作業をいとも簡単に済ませてしまった。
そして切り取ったかぼちゃの底に下から内へむけて釘を刺し、ろうそくを立てる。

「こんなもんだな。」
「凄い!!完成しましたね!!青柳さん有難う御座います!!」
「俺はお前と違って器用だからな。」
「むっ・・・不器用で悪ぅー御座いました!!」
「ほんとのことだろ。・・・・・・それよりこれに火つけてみるか?」
「あ、はい!!どうせなら電気消しましょうよ!!雰囲気出るし!!」

ライターを用意し、部屋の明かりを消した。窓から差し込む光を頼りにランタンの目の穴からろうそくに火を灯す。明るい炎が不気味に揺らめいていた。その輝きに魅入っていた私はただじっとランタンを見つめていた。

「青柳さん、ほんと有難う御座います。」
「・・・あぁ。気にすんな。」
「ところで青柳さん、忘れ物がどうとか言って・・・」
「さて、と。明日も早ぇしとっとと帰るか。じゃ、かれおつー。」
「え・・・あ・・・お疲れ様です。」

早口で捲くし立てる青柳さんの顔が少し赤く見えたのはランタンのせいだろうか。


後日、矢沢さんに聞いた話によると、青柳さんはしきりにあいつは不器用だからな、と心配していて居てもたってもいられなくなったそうだ。
そこまで不器用じゃないのに、と不満を漏らしながらもちょっと自惚れそうになる私がいた。


× colse






素直じゃない青ちゃんが大好き.
そんな不器用な優しさを書きたかった.
(20071026)