─彼女の名前は「 」。
そして、彼の名前は「大河内 春樹」。

どこにでもいそうなごく普通の二人は、ごく普通に恋に落ち、ごく普通のお付き合いをしていました。
でも、そんな彼らが普通とは異なっていたのは、

彼らは警視庁に勤め、更に彼女は生粋のお嬢様だったのです─


退屈



「暇。」

ここは、家の一室。
執事の小林さんが入れてくれた紅茶とあたしが愛して止まないものの一つ、メロンパンを食べながら読書をしていた。
こんな風に午後を優雅に過ごしていたけど、こういうのは直ぐ飽きてしまう。
非番なのはいいけど・・・・・・退屈なのも問題だ。

「暇だなぁー・・・」


こんなときは・・・

「ちょっと出かけてきますね。」
「「「「「畏まりました。いってらっしゃいませ、お嬢様。」」」」」


とっても可愛い(むしろ萌え系)メイドさんたちに挨拶をしてあたしは出かけた。
向かうのは勿論、春ちゃんこと大河内春樹のところ。
仕事してよーが関係ないね。だってこのあたしがわざわざ非番の日にも拘らず会いに行ってあげるんだから。
ふふふ。待ってなさいよー大河内春樹っ!



街中を歩きながら目的地をめざす。
特に急ぐわけでもないから、のんびりと周りのお店を少し覗いてみたり。
途中、パン屋さんを見つけた。こんなところにあったのかと思いながらも、その甘い香りに誘われて店に入った。勿論買うのはメロンパン。

あたしと・・・春ちゃんの分。
その甘い香りとこれから会う人のことを思うと自然と笑みがこぼれる。

あたしはメロンパンを抱えながら警視庁に辿りついた。
そして、迷うことなく春ちゃんのいるであろう部屋へと向かった。



「はぁーるーちゃん!」

ドアを開けると、とても驚いた様子の春ちゃんがいた。
(多分、食べようと思って手に取ってた例の薬を落としたのが見えた。)
でも、すぐに我に返ったのか落ちた例の薬を拾いながらどこか呆れたように口を開いた。

「・・・。まずノックしてから入れ。常識だ。」
「それ聞き飽きた。」

せっかくあたしがわざわざ会いに来たっていうのに第一声がこれかよ。ほんと春ちゃんってば相変わらずお堅い。

「で、何しに来た?お前、非番だろ?」
「非番だからわざわざ会いにきてあげたのよ。しかもお土産付きだよ?!」
「(わざわざって・・・)」
「・・・あたしが来てあげたのに嬉しくないのかな?」

何なの!!このリアクションの薄さ!!
(いつものことだけどさー)

「で、わざわざ来ていただいたお嬢様は何故ここに?」
「・・・退屈だったから。暇だったから。」
「それだけ?」
「それだけ。」
「そうか。」

そうかって何だよ。・・・しかも何?この沈黙。


「要するにお前は俺に会いたかったんだろ?」
「ちょ!!・・・・・・自惚れないでよっ。」
「はいはい。」

そう言いながら春ちゃんはソファーに座った。
あぁ。きっとあたしの顔は真っ赤だ。熱でもあるんじゃないかってくらいに。

「お土産、買ってくれたんだろ?俺に。」
「・・・うん。」
「じゃあ、二人で食べよう。な?」

そう言って優しく微笑む春ちゃん。・・・悔しいけれどその笑顔は反則だよ。
あたしの勝手な我侭で、勝手に押しかけても絶対怒ったりしない。そんな春ちゃんがあたしは・・・好き。

なんて絶対本人には言ってあげない。


「・・・仕方ないなぁー。一緒に食べてあげる。」
「はいはい。」

・・・クスクス笑う春ちゃんにはあたしのことは全てお見通しなのかもしれない。癪に障るけれど本当は嬉しかったりする。

そして口いっぱいに広がるメロンパンの甘さと紅茶の香りに包まれた部屋。
あぁ。あたしってほんと世界一の幸せ者だよ。全く。

。」
「なぁーに?」
「今、退屈か?」

答えなんか分かりきってるじゃない。

「忙しいよ、ぼーっとしてたら幸せを見逃しちゃいそうだもん!」
「・・・そうか。」

あたしと春ちゃんは目を合わせ笑った。


× colse






お嬢様っていうか・・・ただの我侭女.
そして春ちゃんは紳士です.

今回のテーマは・・・ 貴方がいなきゃ、退屈なの! というわけで、こんな感じです.
(20070216)