─彼女の名前は「 」。
そして、彼の名前は「大河内 春樹」。

どこにでもいそうなごく普通の二人は、ごく普通に恋に落ち、ごく普通のお付き合いをしていました。
でも、そんな彼らが普通とは異なっていたのは、

彼らは警視庁に勤め、更に彼女は生粋のお嬢様だったのです─



憂鬱




「ラブレターが欲しい。今すぐ書いて頂戴。」



毎回の如く思うことだが何故この女は、こんな意味不明な要求をするのだろうか。しかも私に拒否権というものは全くはない。こいつは簡単には引き下がらない女だからだ。

唐突に、それも嵐の如く部屋にやって来ては無茶を言う。
この女、 は世間一般で言うならお嬢様で、一警察官・・・・・・のはずなのだが。少々・・・否、かなり傍若無人で猪突猛進だ。


例の如く、彼女は勢いよく部屋に入ってはラブレターを書けと命令し、私の言葉を無視した挙句、勝手にレターセットを置いて一課に戻って行った。

結局、の強引さに負けてしまう私は、彼女が用意した薄い青色の便箋と向き合う破目になった。

はっきり言ってラブレターなど書いたこともなし、正直言って書くのが面倒くさい。・・・大体そんなものを書かなければ私の気持ちは分からないのか。

『目に見える形で欲しいもん・・・』

普段は素直にならないくせにこういうときだけ素直に言われてしまったら、どうにかしてやらなければと思ってしまう。
私がこう思うと知っての行動だろうか。分かってるのだか、分かってないのだか・・・
ずっと年下の彼女に流されてしまう私は本当にどうかしている。

取り敢えず、書かなければ終わらない。
私はペンを取り出した。



・・・・・・ところで出だしは、どうするんだ。



『拝啓。春の息吹が感じられるようになり・・・』
・・・って祝辞の挨拶か。

ストレートに一言でもいいか。
『君はまるで麻薬のようだ。一緒にいればいるほど、もっと一緒にいたくなる。』
・・・って何処ぞの二流小説か。



一人で突っ込むのが癖になってしまったのか・・・私は・・・



仕事を他所に、手紙と格闘し続けること数時間
ようやく手紙を書き終えた頃には、もう太陽は傾き月がほんのり見え始めていた。悩みに悩みぬいた手紙をを封筒に入れ、の待つ捜査一課に向かった。

彼女はデスクにうつ伏せていた。おそらく書類整理に追われていたのだろう。ペンを片手に気持ちよさそうに寝ていた。

職務怠慢・・・・・・今日の私もそうだったが・・・

そっとの頭を撫でてみた。
柔らかい髪の感触とあどけない寝顔に少し気が緩んでしまうのは何故だろう。

一向に目を覚まさない眠り姫にこの手紙を見せたらどんな反応がするか。楽しみ、だな。
そしていつかにラブレターを書かせてみようと誓った。


× colse






お嬢様シリーズ.何ていうか春ちゃんがヘタレ.
春ちゃんが書くラブレターが見たいなーと思って書きました.
(無理やり終わらせた感が漂ってますが・・・)
どんな手紙を書いてくれたかは貴女のご想像におまかせ
(20070410)