不器用なのは知ってるけどさ
やっぱり足りないです。
足りないもの
彼女が不機嫌であることは普通の人間ならば察しがつくだろう。気づかない奴はよっぽど鈍いのだろう。更に言えば、彼女を不機嫌にさせた原因は俺にある・・・らしい。
一体何をしただろうか?全く身に覚えが無い。
「おい」
「何よ」
普段は俺以外の奴にもヘラヘラしてるくせに・・・今はギロっとした目つきで俺を睨んでいやがる。
一体、俺が何をしたっていうんだ!!!
ちょっと困らせたかったのよねー
「おい」
まぁ理由は本当に単純なものだったりする。
「何よ」
いかにも不機嫌です、と言わんばかりの雰囲気で答える。私の隣に腰掛けている彼、伊丹憲一は上司でもあり恋人でもある。
「なぁ・・・」
別に今更ってことなんだけどなぁ・・・
「・・・おい」
何だか無性に悲しくて・・・それで、ちょっとイライラした。
「無視かよ!!!」
隣の男はついに喚きだした。あぁ・・・耳元で大声出さないでよ。
彼女、 は俺の部下であり・・・恋人だ。こいつの機嫌が悪いとなると・・・調子が狂う。
「なぁ・・・」
恐る恐る彼女に声を掛けてみる。返事はない。
「・・・おい」
何でそんなに不機嫌なんだよ!!・・・っていうか返事しろ!!
だんだんこっちまで腹がたってきた。
「無視かよ!!!」
耳元で叫ぶとこいつは呆れ顔でこっちを向いた。
「聞いてるのか」
「・・・聞いてるよ」
「じゃあ、何でそんな不機嫌なんだ」
こちらを睨んでくる。こんな怖い顔しても慣れてるから全然屈指はしない。私はため息混じりに呟いた。
「言葉が足りないっていうかさー・・・」
「・・・何がだ」
「だから、言葉。自分の言葉の中に足りないものがあるの、分からない?」
だから悲しくて、ちょっとイライラした。大人気ないのは分かってる。
言葉が足りない、そう言われた。
・・・それが不機嫌な理由なのか。
足りないという言葉を言えばいいのか?それだけで機嫌が直る・・・って単純すぎだろうが。
俺は彼女を抱きしめた。
「・・・」
憲一さんは私の腕を引っ張った。その腕の中は温かくて居心地が良かった。たったこれだけで胸が高鳴ってしまう。でも少し、戸惑う私がいた。
まさか、抱きしめて機嫌を直そうとしてるんじゃないのだろうか。何だか誤魔化されてるような気もした。
そのとき私の耳元で、私の名前を囁かれた。
「・・・」
それは滅多に呼ばれない私の名前。名前を呼ばれただけでこんなにドキドキするなんて。
「・・・その、何だ。愛してる・・・」
最後のほうは消え入りそうな声だった。でも私にとっては大音量で聞こえた。
・・・まさか、ほんとに言うなんて思いもしなかったから。まさに不意打ち。
(ちょっとだけ困らせたかっただけなのに逆に私が困ってしまった!)
ヘタレ伊丹んが書きたくて書きたくて・・・でも彼だってやるときはやるんです!
(20070503)