私のなかで貴方という存在が特別に変わったのはいつからだろう。ちょっと変わった上司からとても紳士的な優しい人、そして今最も好きな男性へと想うようになってからは本当に心苦しい日が多かったような気がする。
元・奥様は大和撫子という名が相応しい綺麗な大人の女性で、正反対な私が一体どうして好かれよう。何も叶わず終わってしまう、そんな気持ちで溢れていた。
私はそっと貴方の背中を見つめる。
白いシャツにサスペンダー姿の貴方。その背にただただ焦がれる私と少し切なくなる私。この切なさはまるで夕焼けのよう。そんな切なさを抱えながら私は退庁するのだ。
広いロビーを歩いていると玄関口に貴方が笑顔で立っていた。
「さん。」
「あ、杉下さん!!」
「・・・少し、お時間宜しいですか?」
茜色に染まった黄昏が街に聳え立つビルをも紅く染めている。私は初めて屋上に上がった。
「単刀直入に伺います。」
「・・・はい。」
近くに貴方がいる。私は俯いてじっと固まったまま。貴方は深く息を吐く。
「さんは僕のことが嫌いですか?」
「・・・えぇ?!如何して・・・そう思われるのですか?」
反射的に顔を見る。目に映るのは少し寂しそうな杉下さんの顔。
「やっと目が合いましたね?」
「!!」
「貴女はあまり僕と目を合わせないものですから・・・」
「だから嫌ってると思われたのですか?」
「ええ。僕以外の人とは目を合わせて話すのでそう思いました。」
「嫌いなんかじゃない・・・・・・好きです。」
日が傾き、瞬く間に茜色が闇に消えてゆく。私の声もあの茜色のように消えてゆきそうだった。貴女はそんな私を労わるように優しく抱きしめた。
「すみません。」
「・・・え?」
「さんの気持ちに気付いてました。ただ確信が持てなかったので・・・試すような真似をして申し訳ありません。」
いつも見つめていた貴方の背に手を回す。切ない夕焼けはもうとっくに沈んでしまった。
そして貴方は、と自分の名前を呼ぶ声と熱い唇をくれた。