時間はどんどん過ぎてゆく。幼い頃は時間が過ぎるのが遅くて遅くて・・・・・・早く大人になりたかった私にとって、もどかしいものでしかなかった。
それが大人になったときから─大人になる少し前からかもしれない─あれほど遅く流れていた時間がアッという間に過ぎていくようになった。
今では・・・
友人と遊ぶ時間も
ゆっくり休む時間も
恋をする暇もない
大人になることは時計の針を進める速度を早めることなのだろうか?
ふと窓を見れば。ほら、もう夕日が傾き始めている。今日も一日が仕事をして終わる。
仕事に不満があるわけではないけれど、なんだか物足りない。幼い頃は何もかもが鮮明に、刺激的に映っていたのに。あぁ!!大人になんかなるもんじゃないね。
視線を目の前のパソコンに移す。
これを片付ければ今日の仕事は終わり。
さっさと片付けて家に帰って美味しいご飯でも食べよう。それから熱いお風呂に浸かって・・・・・・寝よう。
そんなことをぼんやり考えていると、部屋の奥にある部署─特命係─から男性が出てきて、課長と話をしている。部屋の明かりを消しているところを見ると、どうやら今から退庁するようだ。
特命係って・・・確か、凄く暇な窓際部署だというのを課長から聞いたことがある。
どんな仕事が与えられているのか知らないけれど、一課の事件にいつも首を突っ込んでいて刑事部長が怒ってる、という話も同僚から聞いた。
あまり関わりたくない部署だなと思いながら課長と話す彼を見ると、とても落ち着いた雰囲気の持ち主で、上品なスーツの着こなしを見ると紳士という言葉がぴったりだと思う。
すると彼は課長に一礼した。どうやら話も終えたようだ。彼は入り口に向かって足を進める。
目が合った。
彼の優しそうな眼差しの中に意思の強さのようなものを感じた。
そしてそんな瞳に吸い込まれる・・・・・・そんな錯覚に陥った。
「お疲れ様です。」
名も知らぬ彼は、私─きっと名前なんて知らないだろう─にそう言い残し去って行く。
落ち着いた声色が何だか心地よくて、だけど胸がキュッと締まるような気がした。
・・・あぁ。恋の予感がする!!