「…貴女はとてもどんくさい人ですね。」
私の上司からのありがたい第一声はこれだった。
特命係という何だか胡散臭い部署に異動させられ、そのとき彼に出会った。
第一印象が大切だと思い、張り切りすぎたのが間違いだったのだ。
大きな声で、それでいて飛び切りの笑顔であいさつしたのは良かったのだが、部屋に入った瞬間、足を滑らせてしまいこの謹厳実直な上司─杉下右京─に倒れてしまった。
それからのことはあまり覚えていない、彼が飲んでいた紅茶が全身に掛かってしまい熱かったような気がする。
「さんは本当にどんくさいですね。」
いつものように紅茶を飲みながら杉下さんは言った。
「1週間に3回はつまずいてますよね?」
「・・・・・・」
膝の痛みを堪えながら立ち上がる。
・・・・・・私、そんなに転んでたっけ?
「自分が転んだ回数をきちんと数えていないからですよ。」
ときどきこの人はエスパーでも使えるのではないのだろうかと疑ってしまうときがある。
いつも私や亀山さんが考えていることを当ててしまうのだから。
「杉下さんは数えてるんですか?」
「勿論ですよ。・・・・・・相手がさんですからね。」
私の顔はみるみる赤くなっていくのが自分でもわかった。
そんな様子を杉下さんは満足そうに見ている。
「いつまでそこにいるつもりですか?・・・・・・さんもお飲みになるのでしょう?」
そう言って杉下さんは私の分の紅茶を入れて下さった。
頬の熱さを隠すように透明な琥珀色の紅茶を飲んだ。