恋をすれば綺麗になるというのならば、私はきっと綺麗なはずだ。

要するに私は恋をしてしまった。
恋愛は苦しいものだとつくづく感じる。
片思いは片思いなりに、両思いなら両思いなりの苦しみがあるけれど私にとっては片思いの方が辛く、苦しい。


そんな私は現在進行形で片思い中、というわけだ。




桃色恋情




私はアノ人のことをあまり知らない。好きなものやら誕生日なんてもってのほか。
私が知ってることといえば、いつも不機嫌そうな顔をしていて楽しい上司ではないけど、仕事のフォローはしてくれる上司だということ。


ガリ、ガリリ…


アノ人はいつも何か白い錠剤を食べていて、こっそり“ピルイーター”と呼ばれていること。
あの薬はビタミン剤だとか、頭痛薬だとか様々な憶測が飛び交っているが、実際その“ピル”の正体を知るものはいないと思う。
何でまたこんな人を好きになったのか。同僚や先輩は口を揃えてそう言うのが目に浮かぶ。

だけど私は仕事中の合間のふとした瞬間にアノ人、大河内さんを想ってしまう。そのたびに溜息がこぼれてしまう。


「…おい。」
「あ、はい!!」


上司は、相変わらず眉間に皺を寄せてたまま。


君。君が提出した書類には、ミスが三箇所もあった。溜息を吐く暇があったらミスを失くすように努めろ。」
「・・・すみません」

残業してやっと仕上げたその書類をつき返された。同時に仕事のミスを大河内さんに指摘されたこと、そんなミスを繰り返す自分とに恥ずかしさと苛立ちを覚えた。
まぁ、これで私の仕事がまた増えたというわけだ。全く仕事も恋も上手くいかないなんて典型的な恋愛パターンだな。


仕事に追われながらもそんなことを思って小さく溜息を吐いてしまった。この溜息は叶わぬ相手への思慕の念の表れだとしたら、それをアノ人は気づいてくれるのだろうか?
気づかせる努力をする勇気もない私は何も得ることが出来ないだろう。現に私は仕事にしろ、恋にしろ上手くいっていないのだから。

・・・今は仕事に専念するべきだな
でもなぁ・・・この状況は・・・

この状況、それは想いを寄せる上司と私の二人っきりだった。同僚も先輩も既に退庁していた。恋する者としてはおいしい状況、でもこの上司の部下としては全くおいしくない。


だいたい、何で大河内さんも残業なのよ!
貴方のした仕事は完璧でしょー!!


嬉しいような・・・嬉しくないような・・・でもやっぱり嬉しい。
・・・・・・あぁ、もう!!また考え事をしているとミスをしてしまうかもしれない。私は取り敢えず目先の事柄に兎に角集中することにした。



そして私は赤い空が次第に暗闇に包まれていくことに気づかなかった。

  
溜息は叶わぬ相手への思慕の念の表れ






春ちゃん部下設定で中編もの.片思いな乙女を応援したくて書きました.
何話続くか、まだ未定ですがお楽しみに〜
(20070603)